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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)23号 判決

東京都港区赤坂三丁目3番5号

原告

富士ゼロックス株式会社

代表者代表取締役

宮原明

訴訟代理人弁理士

早川明

古部次郎

小田富士雄

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 清川佑二

指定代理人

立川功

逸見輝雄

今野朗

関口博

伊藤三男

主文

特許庁が、平成4年審判第8629号事件について、平成5年11月25日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者が求めた判決

1  原告

主文と同旨。

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和59年4月14日、名称を「濾波器」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願をしたが、平成4年4月15日に拒絶査定を受けたので、同年5月14日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成4年審判第8629号事件として審理したうえ、平成5年11月25日、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決をなし、その謄本は、平成6年1月12日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨

直列に接続された2つのインダクタンス、

および前記2つのインダクタンスの接続点にその一端が接続された1つの静電容量を有するT型濾波回路を構成する濾波器であって、

平行な脚部を有するほぼコ字状の導電体と、

その両脚部に設けられたフェライトビーズと、

前記2つのフェライトビーズの間に、かつ前記導電体のほぼ中央部に2つの電極面が前後方向になるように配置されたコンデンサとを具備し、

前記コンデンサは、一方の電極面を前記導電体に導電的に固着し、他方の電極面を前記導電体の脚部と同一平面内で前記2つの脚部の中央に配置されたリード端子に導電的に固着されたことを特徴とする濾波器。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、本願出願の日前の他の出願であって、本願出願後に出願公開された実願昭59-48778号(実開昭60-160625号)の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、図面を含め「先願明細書」という。)に記載された考案(以下「先願考案」という。)と同一であると認められ、しかも、本願発明の発明者が先願考案の考案者と同一であるとも、また、本願出願時に、本願の出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本願発明は、特許法29条の2第1項の規定により、特許を受けることはできないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の要旨の認定は認める。先願明細書の記載事項の認定は、先願考案が「前記2つのフェライトビーズの間に・・・配置されたコンデンサとを具備し」ているとした部分(審決書4頁1~4行)は否認し、その余は認める。

審決は、先願考案におけるフェライトビーズ8、8と隔たった上部に位置するコンデンサ基材1を、フェライトビーズ8、8の「間」に位置するものと誤認した結果、本願発明と先願考案が同一であると誤って認定し、本願発明の顕著な効果を看過したものであり、違法として取り消されなければならない。

1  先願明細書の記載事項の誤認

審決は、上記のとおり、先願考案においても、「2つのフェライトビーズの間に・・・配置されたコンデンサ」を具備していると認定しているが、誤りである。

(1)  先願考案におけるコンデンサ基材1は、ホットライン側リード端子5、6に取り付けられた円筒形のフェライトビーズ8、8の上部に位置していることは、先願明細書(甲第2号証)において、実施例の第3例を図示した図面第10図、第11図から明らかである。この第3例は、「第1例の基本構成において、ホツトライン側リード端子5、6の直線本体部分の上部にフエライトビーズ8、8を挿入して、インダクタンス調整した例」(甲第2号証明細書4頁8~11行)であるが、第1例についての「ホツトライン側リード端子5、6の本体部分はクランク状にアース側リード端子4側に屈曲されて」(同号証3頁11~13行)との説明及び図面第4図におけるクランク状の屈曲形態をみれば、第3例における「ホツトライン側リード端子5、6の直線本体部分の上部」は、第1例を図示する第4図における基部5a、6aと同等の位置(上下関係)となり、フェライトビーズ8、8はコンデンサ基材1の下部、すなわち、コンデンサ基材1はフェライトビーズ8、8の上部に配置されることになる。

このように、コンデンサ基材1は円筒形のフェライトビーズ8、8の両者に挟まれて形成される空間から隔たった上部に配置されているのであって、社会通念上、「間」とは二つのものに挟まれた部分、物と物とに挟まれた空間部分をいい、二つのものを結び、両者によって占有される空間に位置する状態が「間」であると解されるから、先願考案におけるコンデンサ基材1がフェライトビーズの間に配置されているということはできない。

(2)  被告が主張する「2つのフェライトビーズを隔てる空間」とは、とりもなおさず、「両者を結び、両者によって占有される空間」と同義である。

特公昭54-11722号公報(乙第2号証)の図面第3図に記載された穴窓6、7は、個々の穴窓をみると確かに活字と活字との「両者を結び両者によって占有される空間」には存在していないが、そもそも同公報記載の発明は、穴窓6、7によって、活字と活字との間にクラックが入ることを容認し、また同図の4に示す如く積極的にクラックが穴窓6、7を結ぶ線上に入るように構成してなされるものであり、穴窓6、7は単独では存在しえない。すなわち、その特許請求の範囲の「活字と活字の間に窓又は沈みを設けた」なる構成要件は、穴窓6、7の両者によって、達成されるものであるから、同公報記載の発明の他の実施例である第4図の長窓8及び発明全体を考慮すれば、同公報には、活字と活字との間にクラックを入れ又は入った場合にクラックの進行をくい止めるように窓又は沈みを設けることが示されているにすぎないから、同公報は、活字と活字との両者によって占有される空間を「間」の文言によって表現していることになる。

次に、実願昭58-191528号(実開昭60-132582号)の明細書及び図面のマイクロフィルム(乙第3号証)において、「互いに隣接する列を構成する前記伝熱管が互いの間にくる如く配設し」との記載が具体的に第6図のどの関係を説明しているか不明確であるが、斜め方向でみれば、互いに隣接する列を構成する伝熱管断面の関係は、両者を結び両者によって占有される空間に存在しているし、また、伝熱管には気流のINとOUTとがあることから、伝熱管は接続された一組と考えるべきであるから、第6図のH列の伝熱管は、気流方向において、I列の伝熱管とH列を挟んでI列の反対側にある列の伝熱管の両者を結び、両者によって占有される空間に少なくとも存在していることが理解できる。さらに、同公報の考案の詳細な説明の「気流に対して交叉する切起こし部7-1、7-2を前記伝熱管9の間にくる如く配設し」との記載については、第6図のC方向の構造から考察すると、気流方向において、切起こし部7-1、7-2は、伝熱管断面9と9との両者を結び、両者によって占有される空間に少なくとも存在していることが理解できる。

以上のとおり、上記各公報は、被告主張の「間」という用語の意義を示すものとはならない。

さらに、特許公報において、「間」の文言を「両者を結び、両者によって占有される空間」として捉えて使用している例は多くみられるところである(甲第6~第15号証)。

(3)  被告は、本願発明が先願明細書の図面第7図及び第10図に記載された実施例の単なる変形にすぎないと主張するが、これらのものと本願発明との構成の差は、設計上の微差ではありえず、また、奏される効果にも著しい差がある。被告が挙げる実願昭57-115472号(実開昭59-22514号)の明細書及び図面のマイクロフィルム(乙第1号証)には、コンデンサの形状の変革と相まってフェライトビーズの間にコンデンサを積極的に挿入させるといった本願発明の技術的思想は全く存在しないから、同文献をもって、本願発明の技術的手段に慣用性が認められるということはできない。

2  一致点の認定の誤り及び顕著な効果の看過

前記のとおり、先願考案には、「前記2つのフェライトビーズの間に、かつ前記導電体のほぼ中央部に2つの電極面が前後方向になるように配置されたコンデンサとを具備し」との構成はない。

本願発明は、コンデンサの形状の変革と相まって、フェライトビーズの「間」にコンデンサを積極的に挿入させ、新たな課題を解決するという技術的思想に基づいてなされたものであり、旧式なコンデンサ基材を前提とする先願考案の技術的思想とは明らかに区別されるべきものである。

本願発明は、先願考案にはない前記のとおりの構成を備える結果、「3つの端子を含む平面に垂直な方向の当該濾波器の厚みを、前記端子挿入用穴のピツチ以下にすることができ」(甲第3号証7欄28行~8欄1行)、「濾波器の高さを低くでき、プリント基板の積層を高さの低い間隔で行うことができ」(甲第5号証7頁4~6行)、「該コンデンサの電極面に接続されたリード端子を短くできる。この結果、該T型濾波回路に高周波が入力してきた時に、該リード端子によって発生するインダクタンス成分が少なくなり、濾波器の直列共振に関与するインダクタンス成分を小さくすることができ、濾波器の性能を向上することができる。」(甲第4号証補正の内容(1))という格別の効果を奏するものである。

審決は、原告が審判請求理由補充書(甲第5号証)において主張した「前記コンデンサの電極面に接続されたリード端子を短くでき、この結果、該T型濾波回路に高周波が入力してきた時に、該リード端子によって発生するインダクタンス成分が少なくなり、濾波器の直列共振に関与するインダクタンス成分を小さくすることができ、濾波器の性能を向上することができる。また、濾波器の高さを低くでき、プリント基板の積層を高さの低い間隔で行うことができる。」との点につき、上記主張を裏付ける構成が特許請求の範囲に記載されていないと認定した(審決書5頁1~5行)。

しかしながら、前記のとおり、本願発明は、「前記2つのフェライトビーズの間に、かつ前記導電体のほぼ中央部に2つの電極面が前後方向になるように配置されたコンデンサとを具備し」との構成に起因して、上記のとおりの効果を奏することができるものであるから、審決の上記認定は、本願発明の構成と作用効果との関連を看過したものである。

以上のとおり、本願発明は、先願考案と相違し、この相違に起因して、作用効果も相違するものであるから、両者を同一ということはできない。

第4  被告の主張の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。

1  原告の主張1について

(1)  先願明細書(甲第2号証)の図面第10図をみると、コンデンサ1の一方の面には、ほぼコ字状のホットライン側リード端子5、6のほぼ中央部が接続されており、コンデンサ1の他方の面の中央部が、アース側リード端子4の線上に接続されている。

そして、2つのフェライトビーズ8、8は、ホットライン側リード端子の両脚部に設けられているのであるから、2つのフェライトビーズ8、8に対して、アース側リード端子4は、その「間」に配置されている。このアース側リード端子4についてみると、同端子のどの部分までがフェライトビーズの「間」にあり、どの部分が「間」にないのかは区別することはできず、広辞苑、新明解国語辞典、大漢語林などの「間」の定義によると、2つのフェライトビーズの間とは、2つのフェライトビーズを隔てる空間における大体の範囲ということができ、アース側リード端子4の線上にある部分は、少なくともフェライトビーズの「間」にあるものと解される。

以上のことからすれば、アース側リード端子4の線上にその中央部が接続されているコンデンサ1は、2つのフェライトビーズ8、8の若干上部にあるものの、2つのフェライトビーズ8、8の「間」に配置されているということができる。

(2)  原告は、先願考案におけるコンデンサ1は、2つのフェライトビーズ8、8の「間」に配置されていないと主張するが、「間」という用語は、二つのものに挟まれた空間からは若干はずれているが、二つのものから等距離の線上にあるもの、あるいは二つのものを結ぶ線の中心を通り、その線と垂直な線上にあるものを、意味するものとして、一般に用いられている。

その例として、特公昭54-11722号公報(乙第2号証)の図面第3図には、金属ベルトの長手方向に、活字列2が一体形成された活字ベルト1において、2つの活字に挟まれた空間の上部あるいは下部に穴窓6、7が設けられたものが記載されており、この構成が、その特許請求の範囲において、「活字と活字の間に窓を設けた」と表現されている。

また、実願昭58-191528号(実開昭60-132582号)の明細書及び図面のマイクロフィルム(乙第3号証)の図面第6図には、気流方向(C、D参照)に交叉して、伝熱管9が複数列(Iの列、Hの列参照)設けられたものであって、一方の伝熱管の列(Iの列)を構成する2つの伝熱管の中心を通り、かつその列に直交する線上(Gの線参照)に、他方の列(Hの列)を構成する伝熱管9が配置されたものが記載され、これにつき、その考案の詳細な説明には、「互いに隣接する列を構成する前記伝熱管9が互いの間にくる如く配設し」(同号証明細書5頁12~13行)と記載され、同様に、2つの伝熱管に挟まれた空間の左右に広がった部分に配置されている切起こし部7-1、7-2について、「気流に対して交叉する切起こし部7-1、7-2を前記伝熱管9の間にくる如く配設し」(同5頁13~15行)と記載されている。

このような「間」の普通の用法からしても、先願明細書図面第10図に記載されたコンデンサ1を、2つのフェライトビーズの間に位置したものということは、社会通念上も妥当である。

したがって、審決が、先願明細書には、2つのフェライトビーズの間にコンデンサを具備したものが記載されていると認定したことに誤りはない。

(3)  仮に、本願発明の「2つのフェライトビーズの間に配置されたコンデンサ」の構成が、「2つのフェライトビーズの両者に挟まれて形成される空間に配置されたコンデンサ」に限定されるとしても、本願発明は、先願考案から通常なされる設計変更の域を出るものではないから、本願発明と先願考案とは同一である。

すなわち、先願明細書の図面第7図及び第10図に記載された各実施例は、コンデンサ1に対して、2つのフェライトビーズ8、8を、それぞれ、厚み方向及び高さ方向に配置したものである。一方、本願発明は、コンデンサ13を挟んで、2つのフェライトビーズ1、2を幅方向に配置したものである(ここで、リード端子が、伸びる方向を高さ方向、並ぶ方向を幅方向、それらと直角な方向を厚み方向という。)。

ところで、フェライトビーズをコンデンサの表面上のどこかに配置する場合、コンデンサの高さ方向、幅方向、厚み方向のいずれかに配置する以外にないことは明らかである。

そして、上記のとおり、先願明細書に、2つのフェライトビーズを、それぞれ、コンデンサの厚み方向及び高さ方向に配置したものが記載されており、コンデンサを挟んでフェライトビーズを幅方向に配置する構造は、実願昭57-115472号(実開昭59-22514号)の明細書及び図面のマイクロフィルム(乙第1号証)に示されているように、周知であるから、コンデンサを挟んでフェライトビーズを幅方向に配置することは、先願考案から普通に採用される程度の形状の変更にすぎず、したがって、本願発明は先願考案と実質的に同一である。

2  原告の主張2について

前記のとおり、先願明細書の図面第10図には、2つのフェライトビーズの間にコンデンサを具備したものが記載されているから、本願発明と先願考案とを対比したとき、両者ともコンデンサが2つのフェライトビーズの間に配置されている点で一致しており、審決の本願発明と先願考案とは何ら区別することはできない。

したがって、両者に相違するところがないとした認定に誤りはない。

本願発明が原告主張のような格別の作用効果を奏するためには、本願発明が「2つのフェライトビーズに挟まれて形成される空間に配置されたコンデンサ」との構成を具備しなければならないが、前記のとおりの「間」の解釈によれば、本願発明の「2つのフェライトビーズの間に配置されたコンデンサ」の構成が、上記の構成を充足しないことは明らかであるから、上記効果は本願発明の構成から必然的に生じるとはいえない。

したがって、審決の、原告主張の本願発明の効果を裏付ける構成が特許請求の範囲に記載されていないとの認定に誤りはない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立は、いずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  原告の主張1について

(1)  先願考案が、「前記2つのフェライトビーズの間に・・・配置されたコンデンサとを具備し」(審決書4頁1~4行)ているかの点を除き、本願発明と先願考案が、その構成において一致していることは、当事者間に争いがない。

先願明細書(甲第2号証)には、その実用新案登録請求の範囲第1項に、「表裏に電極2、3を対向配備したコンデンサー基材1の一方の電極2に沿つてアース側リード端子4を接続するとともに、一対のホツトライン側リード端子5、6を他方の電極3に接続し、このホツトライン側リード端子5、6をアース側リード端子4側にクランク状に屈曲して、これらリード端子4、5、6の各本体部分を同一面内に配備してあることを特徴とする多端子ノイズフイルター。」と記載され、その実施例中には、本願発明と同じく、コ字状の導電体(ホツトライン側リード端子)の両脚部にフェライトビーズが設けられた3端子型の実施例として、「ホツトライン側リード端子5、6の基部5a、5bがコンデンサー基材1から適当距離浮かして形成され、ここにフエライトビーズ8、8が挿入支持され、もつて、ホツトライン側リード端子5、6でのインダクタンスが調整されている」(同号証明細書4頁1~6行)3端子型の第2例が、図面第7~第9図に図示され、また、「ホツトライン側リード端子5、6の直線本体部分の上部にフエライトビーズ8、8を挿入して、インダクタンス調整した」(同4頁8~11行)3端子型の第3例が、同第10、第11図に図示されている。

そして、先願考案において、ホツトライン側リード端子5、6は、いずれも、その実用新案登録請求の範囲にあるように、「アース側リード端子4側にクランク状に屈曲して」いるが、これは、この屈曲部の上部にコンデンサー基材1を置いて、その「一方の電極2に沿つてアース側リード端子4を接続するとともに、一対のホツトライン側リード端子5、6を他方の電極3に接続し」ながら、「これらリード端子4、5、6の各本体部分を同一面内に配備」するためであることは、図面第7~第11図をみれば、明らかである。すなわち、先願考案においては、「従来の3端子ノイズフイルターは3本のリード端子4、5、6が三角状に配置されていたために、プリント基板等への取付けに当つて、既存の自動挿入機では加工処理できず、プリント基板を新たな仕様に改造したり、挿入機自体を新な仕様に改造する必要が生じ、設備コストがかゝる問題があつた」(同2頁11~17行)ので、これを改良して、「リード端子の配置に簡単な改造を加えることで既存のプリント基板や自動挿入機を用いて、組付加工を可能にするとともに、上記改造による特性の劣化を防止したもの」(同2頁18行~3頁1行)であり、「全リード端子4、5、6が同一平面上に配置され、各端子間ピツチPがプリント基板に形成された取付穴ピツチ(例えば2.5mm)に設定」(同3頁13~16行)できるようにしたものと認められる。

これらの先願明細書の記載及び図面によれば、先願考案の第2、第3例は、コンデンサー基材1の横幅が、ホツトライン側リード端子5、6に各挿入支持されたフェライトビーズ8、8の各内側端線の延長線の間に形成される空間の幅よりも大きい場合を想定しつつ、このホツトライン側リード端子5、6及びその間に位置するアース側リード端子4を同一面内に配備し、各リード間の各ピッチを既存のプリント基板に形成された取付穴ピッチと合わせることを意図し、これを実現する構成を開示したものと認められ、それ以上に、コンデンサー基材1の横幅が、フェライトビーズ8、8に各内側端線の延長線の間に形成される空間の幅よりも小さい場合をも想定したものである事実は、先願明細書の全記載その他本件全証拠によっても、これを認めることはできない。

(2)  一方、本願発明は、その要旨に示されるように、3端子型の濾波器において、「前記2つのフェライトビーズの間に・・・配置されたコンデンサとを具備し」との構成を有するものであるが、本願明細書(甲第3、第4、第16号証)には、従来例として、コンデンサが2つのフェライトビーズの上部に配置されているため、コンデンサの電極面に接続されたリード端子が比較的長いものが概略図として図示され(甲第3号証図面第2図)、これに対し、本願発明の実施例としては、2つのフェライトビーズに挟まれた空間内にコンデンサの下部が位置するものが図示され(同第4図)、本願発明の効果として、「前記コンデンサは、コ字状の導電体の両脚部に設けられた2つのフェライトビーズの間に配置されているので、該コンデンサの電極面に接続されたリード端子を短くできる。この結果、該T型濾波回路に高周波が入力してきた時に、該リード端子によって発生するインダクタンス成分が少なくなり、濾波器の直列共振に関与するインダクタンス成分を小さくすることができ、濾波器の性能を向上することができる。」(甲第4号証補正の内容(1))と記載されている。

本願明細書のこれらの記載及び図面に照らせば、本願発明における「2つのフェライトビーズの間に・・・配置されたコンデンサ」との構成は、コンデンサの横幅が、2つのフェライトビーズの各内側端線の延長線の間に形成される空間の幅よりも小さい場合を想定し、このようなコンデンサが全体として、あるいは、少なくともその縦方向における一部が、2つのフェライトビーズに挟まれた空間内に配置されることを意味すると解すべきである。

(3)  以上に述べたところによれば、先願考案は、本願発明の「2つのフェライトビーズの間に・・・配置されたコンデンサ」との構成を有しないと解するのが相当である。

被告は、「間」とは、二つのものを結び、両者によって占有される空間に近接した空間を含むものと解すべきであるとして、特公昭54-11722号公報(乙第2号証)と実願昭58-191528号(実開昭60-132582号)の明細書及び図面のマイクロフィルム(乙第3号証)を挙げる。

前者の公報には、穴窓が活字と活字との間に設けられた構成の発明を示す図面の活字ベルト1において、穴窓6、7が活字と活字とによって占有される空間よりもベルト1の側縁寄りに配置されていることが示されている(乙第2号証2欄20~23行、第3図)が、この穴窓の径は、活字と活字を隔てている空間の幅よりも小さいから、たとえ穴窓がベルト1の側縁寄りに配置されているとしても、全体としてみるとき、穴窓が活字と活字の間に設けられたものと、社会通念上、認められるところである。また、後者の公報においても、同様に、各伝熱管9の径は、伝熱管9の列の間に形成される空間の幅よりも小さく(乙第3号証明細書5頁10~19行、第6図)、その意味で各伝熱管9は、互いの伝熱管9の間に形成されているということができる。また、「気流に対して交叉する切起こし部7-1、7-2を前記伝熱管9の間にくる如く配設し」との記載についても、気流方向において、切起こし部の横幅は、伝熱管列の間に形成される空間の幅よりも小さく、その意味で各切起こし部は、伝導管の間に配設されているということができる。

したがって、これら各公報の記載によっても、先願考案におけるように、コンデンサ基材1の横幅が、フェライトビーズ8、8の各内側端線の延長線の間に形成される空間の幅よりも大きいため、コンデンサがフェライトビーズ8、8の間に形成される空間内に納まらない構成をもって、コンデンサ基材1が各フェライトビーズ8、8の間に配置されているといえないことは明らかである。

被告は、また、本願発明は、先願考案から通常なされる設計変更の域を出るものではない旨を主張し、実願昭57-115472号(実開昭59-22514号)の明細書及び図面のマイクロフィルム(乙第1号証)を挙げるが、同明細書及び図面記載のものは3端子型のものではなく、これによっては、上記の意味における本願発明の「2つのフェライトビーズの間に・・・配置されたコンデンサ」との構成が周知であるとも、慣用の技術であるとも認定することはできないといわなければならず、同主張は採用できない。

その他、先願明細書に、本願発明と同一の発明が実質的に開示されていることを根拠づける証拠はない。

2  以上によれば、本願発明を先願考案と同一ということはできないから、これを同一とした審決の判断は誤りというほかはなく、審決は違法として取消しを免れない。

よって、原告の本訴請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 押切瞳 裁判官 芝田俊文)

平成4年審判第8629号

審決

東京都港区赤坂3丁目3番5号

請求人 富士ゼロックス株式会社

東京都新宿区西新宿3-3-23 ファミール西新宿403号 西新特許事務所

代理人弁理士 平木道人

東京都新宿区西新宿3-3-23 ファミール西新宿403号 西新特許事務所

代理人弁理士 田中香樹

昭和59年特許願第73898号「濾波器」拒絶査定に対する審判事件(平成2年10月12日出願公告、特公平2-45843)について、次のとおり審決する.

結論

本件審判の請求は、成り立たない.

理由

Ⅰ.本願は、昭和59年4月14日の出願であって、その発明の要旨は、出願公告後の平成3年8月22日付け、平成4年6月11日付け各手続き補正書によって補正された明細書及び図面の記載から見て、特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。

「直列に接続された2つのインダクタンス、

および前記2つのインダクタンスの接続点にその一端が接続された1つの静電容量を有するT型濾波回路を構成する濾波器であって、

平行な脚部を有するほぼコ字状の導電体と、

その両脚部に設けられたフェライトビーズと、

前記2つのフェライトビーズの間に、かつ前記導電体のほぼ中央部に2つの電極面が前後方向になるように配置されたコンデンサとを具備し、

前記コンデンサは、一方の電極面を前記導電体に導電的に固着し、他方の電極面を前記導電体の脚部と同一平面内で前記2つの脚部の中央に配置されたリード端子に導電的に固着されたことを特徴とする濾波器。」

Ⅱ.これに対して、原査定の拒絶の理由となった特許異議の決定の理由で引用された、本願出願の日前の他の出願であって、その出願後に出願公開された実願昭59-48778号(実開昭60-160625号参照)の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下「先願明細書」という。)には、(第10図参照)

〈1〉直列に接続された2つのインダクタンス、及び前記2つのインダクタンスの接続点にその一端が接続された1つの静電容量を有する3端子型の高周波用ノイズフィルターに関し、

〈2〉既存のプリント基板や自動挿入機を用いて、組付加工を可能にするために、3本のリード端子を同一平面内に配備するものであって、

〈3〉平行な脚部を有するほぼコ字状のホットライン側リード端子と、

〈4〉その両脚部に設けられたフェライトビーズと、

〈5〉前記2つのフェライトビーズの間に、かつ前記ホットライン側リード端子のほぼ中央部に2つの電極面が前後方向になるように配置されたコンデンサとを具備し、

〈6〉前記コンデンサは、一方の電極面を前記ホットライン側リード端子に導電的に固着し、他方の電極面を前記ホットライン側リード端子の脚部と同一平面内で前記2つの脚部の中央に配置されたアース側リード端子に導電的に固着された3端子ノイズフィルター、が記載されている。

Ⅲ.そこで本願発明と先願明細書に記載されたものを対比すると、両者は、発明の課題において共通し、かつ、先願明細書に記載された考案における「高周波用ノイズフィルター」、「ホットライン側リード端子」、「アース側リード端子」は、それぞれ、本願発明における「T型濾波回路を構成する濾波器」、「導電体」、「リード端子」に対応するから、両者は、その課題を解決するための構成においても、何ら相違するところがない。

なお、審判請求人は審判請求理由補充書で、本願発明と先願明細書に記載されたものとの作用効果の相違を主張しているが、該主張を裏付ける構成が特許請求の範囲に記載されていないので、審判請求人の主張は採用できない。

Ⅳ.したがって、本願発明は、先願明細書に記載された考案と同一であると認められ、しかも、本願発明の発明者が上記先願明細書に記載された考案の考案者と同一であるとも、また本願の出願の時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本願発明は、特許法第29条の2第1項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成5年11月25日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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